初めて、「帰りたい」と思った登山だった。
自分の限界と可能性を知った、極限の南部南アルプス。
今回やるのは椹島から反時計回りに、千枚岳~荒川三山~赤石岳と巡る周回ルート。コース自体はポピュラーだが、椹島から最高地点の悪沢岳までの標高差は約2000m……1泊2日でやろうとすればタフな縦走、テントを担げば地獄の苦悩の完成だ。
夜明け前から月明りをたよりに歩きはじめる。そして3時間たって、日が差してきても、まだ僕は森の中にいた……
木の間からのぞく頂は、はるか遠く高く……あそこを歩いている自分が想像できない。
針葉樹ばかりの中に、ちらほらと紅葉が。
その紅葉が燃えるようになってきたとき、見えてきたのが千枚小屋。
もう、ここで止めたい……ここでテント張ってしまいたい……
でも、まだ9時半。残る行程は4時間半。行ける。行けてしまう……
カップヌードルを食べて、水を補給し、後半戦へ。
休憩をとっても、すぐに足が重くなる。千枚岳への道中で、ようやく森林限界を越える。
千枚岳。
そして丸山。ここから先は、全てが3000m越えとなる。
悪沢岳への最後の登り。
南アルプスには珍しい(?)ゴーロ帯。歩きにくくて好きじゃない。
そしてついに悪沢岳山頂。
さすがにここだけは心が躍った。「今日、ここより高いところに登らなくても良い」という意味でも…
あいにくガスがひどくて、南アルプスにいるのに周りの山が全く見えないのが残念。それでも、逆に、現在唯一雲の上に突き出た悪沢岳に立っている幸運も覚えた。
ところで、この悪沢岳。完全に静岡県に属する。海のイメージが強い静岡県に、富士山以外に3000mもの地点があることに少し違和感を覚える。(地形図を見ると、静岡県が管轄するしかないことが分かるが)
いったんコルへ下る。
この下りが非常に急で。登ってくる人たちはかなりキツそうで、下る側はものすごい気を遣う。
中岳への登りで振り返る悪沢岳の、端正なピラミダルな姿。ここからの姿が一番かっこよかった。
それにしてもこの怒涛のアップダウンに、「何が荒川三山」と思ったのは僕だけではないだろう。
中岳。
少し顔をのぞかせているのは赤石岳。
時間が経つにつれて雲が下がってきて、やっと富士山が頭を出した。
向かい側、前岳。
というわけで前岳山頂なのだが。中岳との距離が近すぎて、改めて「荒川三山」というくくり方に違和感を覚える。
本日最後の行程、中岳から荒川小屋への下り。
その道中から眺める、圧倒的な紅葉と、雲をまとった赤石岳。
今日まで「南アルプスの王」といったら北岳と思っていたが、これを見てしまったら考え直さずにはいられない。そもそも赤石山脈だし…
あとはその紅葉をくぐって、荒川小屋へ。
荒川小屋へついて速攻で受け付け。速攻でテントを設営して、速攻で食事を済ませて、そのまま倒れ込んだ。
本当に、本当にキツかった。キツかったけど、もう一日待っている。2000m登ったということは、2000m下りなきゃいけないということ。つまり、とにかく寝なきゃいけない。
2日目へ続く